ロマン砲リチャード、巨人での新たな挑戦に光が差す——ホームランで示した覚醒の兆し
2024年5月13日、京セラドームで行われたソフトバンク対西武の試合後、ソフトバンク・小久保監督は記者会見の冒頭で「リチャード、ホームラン打ったね」と、思わず笑顔を見せました。これはもちろん、前日に巨人へ電撃トレードされたリチャード選手が、移籍初戦で放った衝撃の一発を指しています。質問はこの日の勝ち投手であるモイネロ選手についてだったにもかかわらず、小久保監督が真っ先にリチャード選手の活躍に触れたことからも、その喜びの大きさが伝わってきます。
小久保監督は、ウエスタン・リーグで指導していた時代からリチャード選手を見守ってきた人物です。「広島のユニフォームで戦ったのがやりやすかったのかもしれない。広島も彼の5年連続ホームラン王の実力を知っているでしょうから」と語り、環境の変化がリチャード選手にとってプラスに働いたのではないかと期待を寄せました。
また、沖縄出身で親交の深い山川穂高選手も、リチャード選手の移籍に対して独特の感慨を抱いていたようです。トレード報告の電話を「5秒で切った」と笑いつつ、「今さら頑張れなんて言うのも違う。かまうと寄ってくるから突き放すけれど、結局来る。そこがかわいいし、彼らしい」と語り、その愛情の深さが垣間見えました。そして、「彼には間違いなく能力がある。打球速度は大谷翔平選手並み。ただ、自分の信念を持って、この世界でどう生きるかを早く見つけてほしい」と、リチャード選手のさらなる成長を願っていました。
巨人移籍初戦で放ったメジャー級の一発
そのリチャード選手は、移籍会見を行ったその日に、広島戦に「7番・三塁」でスタメン出場。第2打席、広島・森翔平投手の143キロのストレートをフルスイングし、左中間に舞い上がった打球は、センターの中村奨成選手が懸命にジャンプするも、フェンスを越えてスタンドへ飛び込みました。この移籍1号ホームランは、2022年7月13日のオリックス戦以来、約3年ぶりの1軍本塁打となりました。
その後もリチャード選手は、第3打席で三遊間を破るヒットを放ち得点機を演出。第5打席では四球を選ぶなど、攻撃面での存在感を示しました。第1、第4打席では三振に終わったものの、特に第5打席で見せた「見逃し四球」に、野球評論家の中には「覚醒の兆しを見た」と評価する声もありました。
これまでリチャード選手が苦手としていたのは、速球と変化球を織り交ぜた揺さぶり。ソフトバンク時代の1軍ではその対応力が課題となっていました。しかし、今回の試合では、フルカウントから低めのボール球に手を出さず四球を選ぶなど、精神的な成長もうかがえました。ベンチでは橋上秀樹作戦戦略コーチがチャートを用いて丁寧に狙い球の指示を送り、こうしたサポートが奏功したと見られています。
阿部慎之助監督も「よい働きをしてくれた。今後も楽しみ」と高く評価。左肘の怪我で岡本和真選手を欠く巨人にとって、リチャード選手の存在は大きな希望と言えるでしょう。
元コーチが語る“覚醒”への鍵
かつてソフトバンクの2軍打撃コーチとしてリチャード選手を指導した野球評論家・新井宏昌氏も、今回の移籍と活躍に注目しています。新井氏によれば、リチャード選手は外角の球に対して「遠くに見える」と苦手意識を持っていたそうですが、それに対してスタンスの調整を提案したことで2軍での才能が開花しました。特に「バックスクリーンを狙うイメージ」でのスイングが、リチャード選手の長打力を引き出したのです。
「NPBでもトップクラスのパワーを持ち、スイングを変える必要はありません。本塁打王を取れる実力があります」と太鼓判を押す一方で、1軍で結果を出せなかった理由として「やさしい性格」が課題だと指摘します。1軍の投手は緻密なコントロールで弱点を突いてくるため、強い信念と精神的なタフさが不可欠だと説いています。
今回の移籍については、「ソフトバンクには見切られたが、巨人には先入観がない」とし、これはリチャード選手にとって絶好のチャンスだと強調。「ここでやらなければ後がないという覚悟を持って臨めば、きっと“化ける”ことができる」とエールを送りました。
新天地での飛躍へ——リチャード選手のこれから
リチャード選手は、ファームでは5年連続本塁打王、4度の打点王と輝かしい実績を残しながらも、ソフトバンクの1軍では結果が出ず、今季も打率.091と苦しいスタートとなっていました。しかし、環境が変わることでプレッシャーから解き放たれ、実力を発揮しやすくなることは往々にしてあります。
巨人という新たな舞台で、リチャード選手が持つ「ロマン砲」としての魅力がついに花開くのか。今後も彼の一打に、多くのファンが注目し、そして熱い期待を寄せています。
「この世界でこうやって生きていくんだ」という信念を胸に、一歩一歩、自分の道を切り拓いていってほしいと心から願います。
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