こんにちは!今回は、目覚ましい成長を遂げてきた中国の自動車市場が現在直面している、ある深刻な課題について深く掘り下げて解説していきます。
中国経済の減速が進む中、自動車メーカー間の競争は激化の一途を辿っています。市場での地位とシェアを高めるため、多くのメーカーが激しい価格競争を繰り広げた結果、信じがたい、そして少し奇妙な現象が生まれてきました。それが、**「走行距離ゼロキロの中古車」**です。
驚愕!「走行距離ゼロキロの中古車」の正体
もしかしたら、数百台ものBYD車がディーラーや空き地にずらりと並べられている映像を、SNSやニュースで目にした方もいらっしゃるかもしれません。
実はこれらの車、顧客には販売されていません。しかし、販売台数を増やすためだけに、ディーラーによって登録され、ナンバープレートが付けられているのです。ほとんどの車は走行しておらず、中には走行距離が0キロと表示されている車もあります。
実質的には新車なのに、中古車として扱われているという、何とも不思議な状況が起きているのです。
中国自動車業界の「隠れたルール」を暴露した長城汽車会長
このような状況の中、中国の自動車業界で民営自動車メーカーとして8位に位置する長城汽車の魏建軍(ぎ けんぐん)会長が、ついに沈黙を破りました。彼はこれまで公然の秘密とされてきた、中国自動車業界の**「隠れたルール」**を公にしたのです。
魏建軍会長は、中国の数千ものディーラーや中古車業界が、販売データを偽装している疑いがあると指摘。彼のこの衝撃的な発言は、中国の自動車業界全体に大きな波紋を広げました。
5月21日、魏建軍会長は中国の大手ポータルサイト、シーナファイナンスのCEOによるインタビューに応じ、次のように述べました。
「中国の電気自動車業界は見かけ上、好調のように見えますが、実際は、大きな損失を出している。」
そして、現在の過度な価格競争が自動車メーカーに**「手抜き」**を強いるのではないかという、深い懸念を表明したのです。
会長はさらに続けます。「メーカーが安全性、耐久性、信頼性に関してもコストを削減している可能性があります。最終的に品質の低下に苦しむのは、車を購入した消費者です。」
魏会長によれば、以前は20万元(日本円で約400万円)以上で販売されていたモデルが、今では半額の10万元(日本円で約200万円)台にまで価格が下がっている例もあるそうです。そして、彼は問いかけます。「どのような車が、10万元も価格を下げても同じ品質を保証できるでしょうか?」この問いは、業界の現状に対する痛烈な批判であると同時に、消費者への警告でもありました。
「ゼロキロ中古車」が横行する理由
魏建軍会長は、混乱を招いている**「走行距離ゼロの中古車」**についても言及し、大きな波紋を呼びました。
会長は次のように述べています。「販売登録とナンバープレートの発行を完了した車両が、一度も走行されないまま中古車市場に出ている。」さらに驚くべきことに、「中国の中古車プラットフォームには、このような車両を販売する業者が少なくとも3,000〜4,000社に達する」と指摘したのです。
近年、中国自動車市場で急速に広がっているこの**「ゼロキロ中古車」**は、実際の走行履歴がない車両を中古車として登録し、新車よりも安い価格で販売する方式です。しかし、一度中古車となってしまえば、新車同様の保証は受けられません。では、なぜ販売店はこのようなことをするのでしょうか?
その理由は、メーカーやディーラーが、無理な販売目標を達成するための**“裏技”**として、この仕組みを利用しているからです。
たとえば、自動車メーカーは、販売台数をかさ上げすることで、より多くの政府補助金を手に入れることができます。さらに、登録済みの車を安価な中古車として海外に輸出すれば、税金の還付まで受けられる仕組みになっているのです。しかも、一部のメーカーは、「ウチは売れてますよ」と投資家にアピールするために、車がラインから出た直後に、すぐさま登録してしまう――そんなことまで意図的に行われていると言われています。
BYDへの言及か?中国商務省が緊急会議
率直な物言いで知られる魏建軍会長の「ゼロキロ中古車」発言は、中国の自動車業界全体に衝撃を与えました。具体的な企業名こそ挙げませんでしたが、過去に魏建軍会長が「虚偽を働く自動車メーカー」として何度も批判を行っていたことから、その発言は、明らかにBYDを指している可能性があるとみられています。
事態を重く見た中国商務省は、5月27日、緊急の非公開会議を開催しました。ロイター通信によると、会議にはBYDを筆頭とする中国自動車メーカー、中国自動車工業協会(CAAM)と中国自動車流通協会(CADA)、そして一部の中古車取引プラットフォームの関係者が参加し、「走行距離がゼロの中古車」の販売慣行に関する議論を中心に行われたといいます。
中国の自動車市場は近年急速に成長していますが、その華やかな表面の下には、競争が激化するにつれて深刻な危機が潜んでいることが露呈した瞬間でした。このような現象は、中国自動車業界の長期化する価格競争の中で生じた副作用だといえます。
赤字覚悟の価格競争とディーラーの苦境
BYDは最近、10車種以上の自社モデルの価格を大幅に引き下げました。すると他社も値引き競争に加わり、中国では車の価格下落が加速しています。**「ゼロキロ中古車」**の問題に加えて、中には車を赤字で販売する例もあり、売れば売るほど、損失が増えるという状況に陥っているのです。
状況は悪化の一途を辿っており、現状を打開する解決策はまだ見えていません。
匿名を条件に取材に応じた、中国の国内自動車メーカーの幹部は、メディアの取材に対し、メーカーがディーラーに対し、実際に販売できる以上の在庫を受け入れるよう圧力をかけていると語りました。たとえディーラーが月に150台しか必要としないとしても、メーカーは200台以上の購入を迫ることもあるそうです。その結果、ディーラーは大量の売れ残り在庫を抱える事態に陥り、安く売ることが常態化しています。在庫は山積みになり、利益は縮小、仕入れした車の代金回収はますます困難になっています。
問題はディーラーだけに留まりません。**「走行距離ゼロの中古車」**が市場に出回ると、消費者は購入直後に、新車の価値が急落するのを目の当たりにすることがよくあります。また、修理などの問題が発生した場合、誰が修理の責任を負っているのかが明確ではなくなります。実際、中国ではすでに消費者が、車を買ったものの、どこにも頼るところがなく、途方に暮れてしまう例も起きているようです。
「不動産危機」と同じ轍を踏むのか?
魏建軍会長はまた、中国自動車業界にはすでに、中国不動産危機の象徴となった「恒大集団(こうだいしゅうだん)」**のような高リスク企業が存在しており、ただ破綻していないだけだと鋭く指摘しました。
魏建軍会長の発言に対し、中国のネットユーザーの反応は大きく二分されました。ある人は「正義感のある発言」と称賛、しかしある人は「ライバル会社への嫉妬ではないか」と疑問を呈しています。支持派は、会長を「自動車業界の良心」と呼び、偽りの繁栄を暴く数少ない人物の一人だと述べ、多くの自動車メーカーが価格競争に盲目的に走る中、冷静な姿勢と信念は非常に貴重だと評価しています。一方「自分だけ目覚めているような発言は、他社を貶めて自社を持ち上げる意図が見える」とする批判的な意見もあります。
しかし、アナリストの多くは、魏建軍会長の発言を支持しており、彼の発言は特定の企業を名指しするものではなく、むしろ、不動産業界と同じ過ちを繰り返すなという、業界全体に向けた警鐘だと捉えています。唯一の違いは、中国の自動車業界での崩壊が、まだ起こっていないということだけです。
魏建軍氏の発言は、翌日の香港株式市場を揺るがしました。自動車株は軒並み急落、BYDの株価は8.9%、吉利汽車は9%、長城汽車は5.2%下落しました。
見せかけの好決算?EV市場の隠れたリスク
中国で急成長しているEV市場は、時限爆弾のように隠れたリスクに満ちています。ブルームバーグによると、2025年第1四半期、EV販売台数で中国首位のBYDの売上高はテスラを上回り、純利益は過去最高の91億5千万元(日本円で約1800億円)に急増しました。
しかし、この数字は真実を物語っているのでしょうか?詳しく見てみると、いくつかの問題が浮かび上がります。
まず、これらの数字の多くは、海外展開、海外工場の建設、中国ブランドの海外市場への進出にかかる実際のコストを除外しています。さらに懸念されるのは利益の質です。
中国自動車工業協会の統計によれば、2024年、中国の乗用車平均価格は前年比8.3%下落、EVの値下げ率はさらに高く、その結果、**業界全体の平均利益率はわずか4.3%**にとどまっているとしています。
中国メディアの界面新聞は、中国自動車メーカー各社の2024年度決算報告で、純利益については、自家用車を主に製造している中国13社のうち8社だけが黒字であり、業界全体での利益は、すべてを合計して約1000億元(日本円で約2兆円)と報道。一方、トヨタ自動車が2024年3月期決算に発表した純利益は、4兆9449億円(前年比101.7%増)と、中国の自動車メーカー上位8社の利益総額を、一社で上回るという圧倒的な経営力を見せています。
さらに、BYDの第1四半期の91億5千万元(日本円で約1800億円)という利益は、サプライヤーへの圧力、積極的な輸出の推進、各国が推進する補助金によって達成されました。しかし、それは深刻な疑問を提起します。いつまで下請け企業や販売店に圧力をかけ続けることができるのか?あと何年、各国のEV補助金に頼ることができるのか?また輸出は伸び続けるのか?
BYDの海外戦略と立ちはだかる壁
BYDが昨年販売した427万台のうち、9割近くを地元中国市場が占めており、今後BYDは海外市場への進出がカギとなっています。
ロイター通信は今年5月、BYDが2030年までに、中国市場以外での販売台数を全体の半分まで増やすことを目指していると報道。しかし、その道のりは平坦ではありません。
BYDが北米初の製造拠点として計画していたメキシコ工場は、6億ドル規模で最大1万人の雇用を見込んでいましたが、米中貿易戦争の中いまだに保留状態、現在、中国当局の承認さえ得られていません。
そしてEUは2024年7月、中国製EVに対する反補助金関税の暫定適用を開始、同年11月から5年間の正式適用に踏み切りました。
今年4月「BYDが欧州のEV販売で初めてテスラ抜いた」として話題になりましたが、その順位は欧州で9番目というもの。ブルームバーグによれば2025年4月、BYD・EVの欧州での販売台数は7,231台で、全体の9位。BYDは「テスラを抜いた」と自慢しましたが、トップのフォルクスワーゲンが欧州で販売したEVの販売台数23,514台の3割ほどです。
さらに、BYDの上位には欧州の老舗メーカーをはじめ、韓国のキア、ヒョンデなど、アジアの競合が8社も入っています。またテスラとの差は僅か66台、テスラの急激な失速は、反トランプなど、政治的な問題も含んでおり、いつ逆転してもおかしくない状況です。
世界第3位の自動車市場、インドはテスラの誘致を目指す一方で、昨年BYDが示した10億ドル(約1470億円)の投資計画を拒否しました。
そして世界第4位の日本市場では、日本自動車輸入組合(JAIA)の統計で、BYDの2025年1〜4月の販売台数はそれぞれ、42台、173台、327台、166台と、4カ月の合計で708台という厳しい状況です。平均すると、BYDの日本での月間販売台数は僅か177台、2024年の月間平均185台とほぼ変わらず、輸入普通乗用車の中での順位も大きな変化はありません。
BYD、EV単独戦略からの転換へ
今年4月「ロイター」は、BYDがヨーロッパ市場の再攻略に乗り出したと報じました。2023年にヨーロッパ市場に初進出したBYDは、2030年までにヨーロッパ最大の電気自動車(EV)販売企業になるとの意気込みを示していましたが、前述のように、いまだドイツのフォルクスワーゲンなど、伝統的な自動車メーカーの牙城を崩せていません。
BYDの王伝福(ワン・チャンフ)会長は、ヨーロッパ市場を再攻略するため、電気自動車だけでなく、プラグインハイブリッド車(PHEV)などのエンジン付きモデルを含めた車種の発売を指示しました。これは、BYDのヨーロッパ特別顧問を務めるアルフレド・アルタビラ氏から、「電気自動車のみにこだわる戦略では、ヨーロッパ市場で成功するのはまだ難しい」との報告を受けたことによるものです。
さらにBYDは、世界第5位の自動車メーカーであるステランティスなどの幹部を、高額報酬で多数採用するなど、迅速な対応措置を取っています。アルフレド顧問は、「プラグインハイブリッドカーが、ヨーロッパにおけるBYDの主要戦略となる」とし、「電気自動車だけを提供することで、消費者の嗜好に逆らうのは愚策だ」と述べました。
BYDは、電気自動車だけでは世界の自動車市場を拡大することはできないと、ようやく認識したようです。しかし、エンジン搭載モデルに関しては、日本や欧州、米国などの自動車先進国に一日の長があるのは明らかです。エンジン搭載モデルに舵を切ったBYDが、果たしてトヨタをはじめとする世界の強力なメーカーを相手に、勝算があるのかは疑問です。
まとめ:中国EVの「持続可能な成長」は可能か?
今回の中国自動車業界の「隠れた真実」について、どのように感じましたか?
国内では走行距離ゼロの中古車が横行し、国内では赤字覚悟の価格競争、そして海外では規制の壁に直面する中国EVの現状は、果たして本当に「持続可能な成長」と言えるのでしょうか。
EV推進の動きが加速する中、今回の情報が、あなたの視点にどのような影響を与えるのか、率直なご意見をコメントで聞かせてください!
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