中国で始まった完全無人の自動運転タクシー。
日本でも2023年4月から特定条件のもとでドライバーのいない自動運転が解禁されましたが、
中国の場合、すでに顧客を乗せて営業しているというから驚きです。
今年7月8日、中国IT大手の百度(バイドゥ)が商用サービスを手掛ける自動運転タクシーが、
中国・武漢の路上で電動スクーターに乗った女性に衝突、軽傷を負わせる事故を起こしました。
SNSに投稿されたビデオ映像では、倒れた電動スクーターと女性が自動運転タクシーの前に横たわっているのが見えます。
百度(バイドゥ)の広報担当者によれば、自動運転タクシーは、青信号で直進していましたが、
赤信号を無視した電動スクーターと軽微な衝突を起こしたという事です。
事故に遭った女性は、スタッフに付き添われて病院に運ばれ、現在は経過観察中であり、
百度(バイドゥ)によれば、目立った外傷は見られないとしています。
しかし、この事故は中国社会に大きな波紋を広げました。
確かに事故は、女性が赤信号を無視したことが原因であったにせよ、人間の運転手であれば、
女性の挙動など、複雑な状況に対処し、衝突前にブレーキをかけ、事故を回避できた可能性があります。
さらに事故が起こった場合、被害者の救助や警察への通報などの処理が出来ず、
自動運転タクシーの乗客はスタッフが到着するまで待つ必要があり、多くの時間を無駄にする事になります。
事故を起こした「キャロット・ロボタクシー」の乗車条件には、乗客の安全を確保する目的で、
妊婦や乳児、チャイルドシートが必要な子供、70歳以上の高齢者、心臓血管疾患や
その他の健康上の問題を抱えている人は乗車できないと規定されています。
これは自動運転の「キャロット・ロボタクシー」が依然として、一定のリスクをもたらすことを示している事に他なりません。
武漢の一部の人々から「キャロット・ロボタクシー」は、一部の攻撃的な人間の運転手に比べ、
安心して乗車できるタクシーとして認知されています。
しかし運転が遅く、時々道端で立ち往生し、頻繁にふらつき、歩行者を避けないことから、
「キャロット・ロボタクシー」は地元の多くの人々から「愚かなニンジン」と呼ばれています。
2台の自動運転タクシーが路上で出会いましたが、お互いどう進めばいいのか分からないようです。
道路が混雑する中、2台は動かなくなり、車のドアも開かず、乗客はスタッフの助けを待たなければなりませんでした。
中国の交通警察も、自動運転タクシーによる渋滞に手を焼いています。
7月12日、交差点で、2台の自動運転タクシーが突然出会いましたが、どちらも道を譲りません。2台は道路をふさぎ、渋滞を引き起こしました。
また別の日、朝のラッシュアワー時には、あまりにも車が多すぎたせいか「キャロット・ロボタクシー」同志がが衝突。
警官は動くように指示をしましたが、自動運転の車はもちろん理解できず停止したままで、通勤中の人々を苛立たせました。
武漢市ではこれらの事故が頻発、同市の掲示板には「キャロット・ロボタクシー」に関するコメントが300件以上、寄せられ、その70%以上が苦情に関するものです。
苦情の主な内容は、理由もなく停止すること、交通渋滞や安全上の危険を引き起こすこと、違法駐車、ラッシュアワー時の徐行などです。
武漢の住民からは、ロボタクシーが信号無視やエンストを繰り返し、交通を混乱させているとの報告が相次いでいます。
3月14日、キャロットロボタクシーがゆっくりと走行、突然道路の真ん中で停止したため、後続の車が急ブレーキをかけました。
5月8日、ロボタクシーがに幹線道路から側道に出るランプの近くに違法駐車、交通を著しく妨げたと報告しています。
また別のコメントでは、朝のラッシュアワー時に、ロボタクシーが理由もなく道路の真ん中で停止
渋滞を引き起こしたため、通常5分しかかからない移動に20分以上かかったとされています。
中国メディアは、この自動運転タクシーを、邪魔されることなく快適なプライベート空間を提供し、
スムーズで安全な乗り心地、そしてきわめて安価な価格を提供していると主張しています。
しかし自動運転タクシーは、中国政府を困惑させる多くの問題も抱えています。
現在、百度アポロは、武漢、広州、北京などの都市でこれらの自動運転タクシーを運営しています。
この自動運転タクシーは、わずか1か月で300万回という驚異的な乗車数を達成、話題になりました。
世界的に有名な大手配車サービス「DIDI」さえ、これほど急速な成長を遂げることは出来ませんでした。
1か月が30日だとすると、300万回の乗車とは 1日平均10万回もの乗車数となります。
さらに運行時間が1日18時間とすると、1時間あたりの乗車数は、なんと5555回です。
DiDi(ディディ)は、現在の1億回の乗車数に達するのに丸3年かかりました。
しかしキャロット・ロボタクシーは、わずか1年でDiDi(ディディ)を上回るかもしれません。
この驚異的なスピードは中国政府は、未来がすでに来ているとし、大きな期待を寄せています。
しかし、現実はデータや、誇大宣伝が示唆するほどバラ色ではありません。
キャロット・ロボタクシーが最初の試験運用を開始して以来、中国では大きな論争を巻き起こしています。
最初に問題が起こったのは、既存のタクシー運転手と、配車サービスの運転手たちの反論でした。
彼らはSNSで「皆さん、これが武漢のキャロット・ロボタクシーです。
会社は自動運転車を持っているので、もう私たちを雇う必要はないと言います。
しかしこれは労働契約に違反し、労働契約法を無視しています。
私たち従業員は、キャロット・ロボタクシー会社の外で抗議運動をしています。
この会社は従業員の権利を奪うだけでなく、多くの違反を伴う運営を行っています。
人々がこのことを問題化し、私たちの権利を守るため法的措置を講じます。」と述べました。
現在、キャロット・ロボタクシーは武漢に400台以上の自動運転タクシーを配備しており、
完全無人のドライバーなしで、24時間365日、年中無休の運行を行っています。
その為、人件費は大幅に削減され、超低価格でユーザーを引き付けています。
中国では、10Kmのタクシー乗車に、以前は18元から30元(日本円で378円から630円)かかっていましたが、
ロボットタクシーを使えば半分以下の、4元から16元(日本円で84円から336円)で済み、移動コストを大幅に節約できます。
当然、利用者はより安価なロボタクシーを選択しますが、この手頃な選択は、タクシードライバーにとって災難を意味します。
2012年に「DiDi」が登場、ライドシェアなどが開始され、中国のタクシードライバーはすでに市場の圧迫を感じていました。
そして今度はロボットが市場に参入、タクシードライバーが仕事を見つけられないほど価格が下がりました。
地元のタクシードライバー、リーさんはメディアの取材に対し、
「現在は午前5時半に仕事を始め、午後5時半に仕事を終えるていますが、収入は以前、400元(日本円で8400円)以上だったものが、
今では200元から300元(日本円で4200円から6300円)まで落ち込んでいおり、生計を立てるのにやっと十分な額だ。」と語りました。
リーさんをはじめ、中国のタクシードライバーたちは、ロボットカーの市場参入に集団抗議、中国政府に助けを求めています。
中国ではすでに、人間対機械による、仕事の奪い合いという闘いの始まりが起こっているようです。
中国国内でもアナリストの中には、ロボタクシーの運行を午後10時以降に限って許可、
昼間に、タクシードライバーたちが、十分に稼げるようにすべきだと提案する人もいます。
しかし400台以上の自動運転タクシーが走る武漢市政府は、いまだに反応も行動もしていません。
現在も中国では、武漢市のタクシー運転手たちが集団で、ロボタクシーの違反を頻繁に通報したり、
低料金をめぐるストライキを起こしたりしているという報道が続いています。
武漢の規制当局は低価格論争について、百度(バイドゥ)のキャロット・ロボタクシーの料金は悪質な価格競争には当たらないとし、
タクシー料金は、市場競争による価格であり、政府部門が介入することはできないと述べました。
激しいタクシー料金の価格競争を受け、中国では廃業するタクシー運転手の数が増加していると言います。
タクシー会社を運営するシャーさんは、すでにドライバーの10%から15%が辞め、この数は増える一方だと述べました。
タクシー会社に加え、ライドシェアのドライバーも大きな被害者です。
以前、中国で職を失った多くの人の受け皿は、フードデリバリー、宅配便サービス、タクシードライバー業界でした。
しかし、中国経済の継続的な悪化と自動運転車により、これらの仕事は飽和状態になり、収入は徐々に減少しています。
タクシードライバーと同じく、多くの宅配ドライバーも、生計を立てることがますます難しくなっていると不満を述べています。
一部の人々は、ロボタクシーの武漢進出を支持しています。
それは優れた人工知能の自動運転タクシーが交通ルールを厳守し、市内の交通問題を解決すると信じているためです。
しかし実際には、ロボタクシーは、方向指示器不使用、逆走、無謀なクラクション、
歩行者無視、車線変更違反など、様々な交通違反を繰り返しています。
多くの問題にも関わらず、武漢・経済技術開発区・管理委員会は、現在自動運転車を推進するとしています。
中国では多くの技術的な問題があり、また世論の反対に関係なく、自動運転車を開発することを決意しているようです。
世論の無視と継続的な失業率の上昇、そして政府のAI開発へのこだわりは、中国国民を大いに失望させているといいます。
中国の著名な政治アナリストジャイ・シャン・イン氏は、ロボタクシーは中国政府が誇示したい政治的成果であるため、
世論によってキャンセルされることはないと述べました。
私が知る限り、杭州(こうしゅうや上海でも自動運転車の試験運用が行われています。
キャロット・ロボタクシーは、国家発展改革委員会、工業情報化部、国家科学技術部門だけでなく、地方政府からも補助金を受けています。
つまり、武漢、杭州、上海の各市政府が、すべてロボタクシーに資金を提供、運行を開始したのです。
その理由は、人間による配車サービスと、タクシードライバーの管理が中国政府にとって大きな問題だからです。
政府は常に運転手が騒ぎを起こすことを心配しており、これは政治的リスクになりますが、
自動運転に切り替えれば、管理がはるかに容易になります。
タクシー運転手や配車サービスの運転手が失業した後、どうやって生計を立てていくのか。
それは政府の上層部が気にしない問題、一般の人々が職を失っても彼らは気にしないでしょう。」と述べました。
自動運転車が私たちの生活にもたらす変化について、あなたはどう思いますか?
またあなたが政策決定者なら、自動運転車の普及をどのように進めていきますか?
それではまた次の動画でお会いしましょう!
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