皆さま、こんにちは。
本日は、2025年に入り急激に変化を見せているロシア国内における中国製自動車の販売動向と、その背景にある地政学的な要因や経済的再編について詳しくお伝えしてまいります。
2025年の最初の4か月間に、中国からロシアへの自動車輸出台数は約15万5,000台にまで落ち込みました。これは、前年2024年の同時期に記録された30万5,000台と比べると、実に半分程度にまで減少していることになります。特に2025年4月だけを見ると、その売上は前年同月比で70%という大幅な減少となりました。
この急激な変化は、たった1年前にはロシア市場において中国車が68%ものシェアを獲得し、現地ブランドであるラーダを大きく引き離していた状況とは対照的です。現在では多くの中国車ディーラーが店舗を閉鎖し、倉庫には売れ残った車両が大量に滞留しており、在庫処分のためにディーラー各社は大幅な値下げを余儀なくされています。
消費者の間では中国車への信頼が急激に低下し、数か月という短期間のうちに、ロシアの自動車市場は成長から縮小・交代の局面へと突入したのです。これは単に消費者の気まぐれや、価格競争に敗れたという表面的な現象ではありません。そこには、より複雑で構造的な背景があるのです。
市場縮小の裏にある政策と制度の変化
この変化の要因は、ロシア政府の政策変更によるものが大きいと見られています。たとえば2024年10月には、環境リサイクル料金やスクラップ税が引き上げられ、中国車が特に対象となりました。その結果、人気のSUV「ハーバルH6」や「チャンガンCS75」などの価格は8万~22万ルーブル(約14万円~39万円)も上昇し、韓国車や一部の欧州車と価格帯が重なる状況となったのです。
さらに、2025年2月にはロシアの国家技術規制機関が火災リスクを理由に中国GAC製の「トランプチGS8」にリコール命令を出し、それ以降も認証を満たしていないとして販売許可が取り消されるモデルが相次ぎました。これらの措置は、関税とは異なる非関税障壁の一形態と見ることができます。
加えて、3月には贅沢品税の課税基準が引き下げられ、100万ルーブル(約175万円)以上の価格の中国車が新たに課税対象となりました。これにより、かつて「手頃な価格」が売りだった中国車は、もはやその魅力を維持することが難しくなっています。
消費者の不信感と市場からの乖離
販売数の低下にとどまらず、ロシアのSNS上では中国車に対する否定的な意見が急増しています。たとえば2025年初頭には、極寒の夜(−25℃)に中国製SUV「ハーバル」のフロントガラスが破損し、それを所有者がハンマーで壊す様子を映した動画が話題になりました。
また、中国車の故障情報を地図上に可視化した「故障マップ」まで登場し、地域ごとの不具合や不満が詳細に共有されるなど、消費者の信頼は急速に崩れています。
これに対して、ラーダやトヨタの中古車への需要はむしろ高まり、特にトヨタ車は15%も価格が上昇しました。ロシアの消費者の間では「信頼できる中古の日本車の方が、中国製の新車よりも価値がある」という意識が強まっているようです。
中国車メーカーの対応と限界
こうした厳しい状況に対し、中国の各メーカーは割引キャンペーンなどを通じて挽回を試みました。たとえばジーリーは一部モデルで20万ルーブル(約35万円)もの値下げを実施しましたが、消費者の反応は鈍く、販売数に大きな変化は見られませんでした。ディーラーは損失を覚悟で販売促進を図りましたが、利益率は一部モデルでマイナス2%にまで落ち込んでいたとのことです。
背後にある地政学的な再編成
このような市場の急変には、地政学的な背景も大きく影響しています。たとえば2025年前半には、トランプ前大統領の再登場、ロシア・ウクライナ戦争の一時的停滞、西側諸国との緊張緩和といった世界的なイベントが同時に起こりました。これにより、かつて戦時下における「便利なパートナー」として重宝された中国の自動車メーカーが、今ではロシア市場から徐々に締め出されているかのような状況が生まれているのです。
輸出ルートの封じ込めとロシアの国内再編戦略
中国車メーカーは、関税や認証の厳格化を回避するために中央アジア諸国を経由する「グレーチャネル」と呼ばれる迂回ルートを利用していました。カザフスタンやウズベキスタンで組み立てた車をロシアに再輸入することで、関税回避を狙ったのです。しかしロシア政府は2025年に入って国境管理と技術基準を厳格化し、このような経路の遮断を図りました。
ロシア当局は中央アジア製の車両にも現地部品の使用を義務化し、事実上中国製部品への依存を制限する形となっています。
ロシアの産業戦略と「静かな国有化」
ロシア政府は現在、自動車産業の自立を強力に推し進めており、国内生産比率の向上を目指しています。中国・グレートウォールモーターがトゥーラに構えた工場も、現在では一部がロシア政府によって国有化されたとの報道もあります。この工場はかつて中国の海外戦略の要とされていましたが、今やロシア産業の中継拠点として、現地技術の育成と中国依存の脱却を目的とした戦略に組み込まれています。
最後に ― 中国の国際戦略にとっての意味とは?
この一連の出来事は、中国の対外進出がいかに不安定な基盤の上に成り立っていたのか、そして受け入れ国の政治的都合によっていかようにも切り捨てられるものであるかを明らかにしています。
皆さまは今回のロシア市場における中国車の急激な退潮をどのように捉えますか?また、この動きは今後の中国製品全体に対する信頼性や国際経済戦略に、どのような影響を与えるとお考えでしょうか?
ぜひ、コメント欄にて皆さまのご意見やご感想をお聞かせください。
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