現在、中国をはじめ、東南アジア諸国では、中国製・電気自動車の無秩序な値引き販売が大きな問題となっています。
中国のEVの価格戦争で、一番怒っているのは、おそらくBYDのサブブランド「ファンチャオ」レオパルド・ファイブのオーナーです。
BYDの突然の値下げによって始まった価格戦争で、これらの車のオーナーは5万元(日本円で約105万円)を失い、多くの人が困窮することになったのです。
この問題は、BYDの子会社ファンチャオバオが今年の7月29日の夜、レオパルド・ファイブの最新価格帯は239800元(日本円で約504万円)からと発表したことから始まりました。
これは以前の価格からレオパルド・ファイブが、50000元(日本円で約105万円)、安くなったことになります。
値下げの直前、市場では、中国の自動車市場での価格戦争はほぼ終わったという世論がありました。
しかし、このBYDの動きは、再び中国で電気自動車の価格戦争を再燃させました。
一部の専門家は、レオパルド・ファイブの値下げは市場シェアを拡大するというより、BYDが売れない車を売るための戦略だと考えています。
BYDが、新エネルギー車の在庫を価格競争で急いで処分しようとする試みは、中国国内だけでなく、海外の消費者達を怒らせています。
中国のインフルエンサーは次のようにコメントしています。
BYDの車は、中国市場にあふれています。BYDは売り上げ不振になれば市場で価格を下げるだけです。
国内ブランドは、このBYDの戦術に太刀打ちできません。
たとえ彼らが、ファンチャオバオ・レオパルド・ファイブを、50000元(日本円で約105万円)の値引きしたとしても、まだBYDは赤字になりません。
以前レオパルド・ファイブを購入した所有者には本当に同情します。一夜にして50000元(日本円で約105万円)の損失です。これは誰にとってもひどい話です。
BYD・ファンチャオバオ・レオパルド・ファイブをは今年上半期に1万8000台を販売、平均すると月3000台になります。
中国メディアの報道によると、BYDがレオパルド・ファイブを値下げしたのは、現在の自動車市場で、他社の各モデルの価格帯が下降傾向にあるためだといます。
レオパルド・ファイブのクラスの車は、多くのメーカーが30万元(日本円で630万円)から20万元(日本円で420万円)の価格帯に移行しており、
レオパルド・ファイブは、このままでは売れ残ると価格を調整したのです。
今年、7月12日に開催された2024年中国自動車フォーラムで、中国・産業省のシンウービン次官は、中国の自動車消費需要と競争が非常に激しいことを認めました。
シンウービン次官は、多くの企業が利益の減少、あるいは損失に見舞われており、
無秩序な競争が産業チェーンとサプライチェーンの安定性に影響を与えていると述べました。
中国・EVの値引き問題は、中国国内だけに留まりません。
ロイター通信は、タイ消費者保護委員会が、中国・電気自動車の問題を調査を開始して以来、
BYD車の所有者から約70件の苦情を受けており、
多くの購入者が中国の電気自動車が、購入後に大幅な値引きをしたと報告しています。
タイにおけるEV販売台数は劇的な伸びを見せ、2023年に約9000台だったEVの販売は、
2024年には約7万6000台とイッキに8倍以上に増加しました。
その8割をBYD、NETA、GWMなどの中国系が占め、タイ市場のBEV比率は前年の1.1%から9.8%へ急上昇。
わずか1年で、タイは東南アジアのEV最先進国に躍り出ました。
しかし、その裏には中国側とタイ側それぞれの思惑があります。
タイは現在、「タイランド4.0」と銘打った産業政策の一環として、2036年までに120万台のEVの普及を目指すという政府目標があります。
EV振興策とした「タイランド EV 3.0」という制度では、タイで現地生産を計画するメーカーのEVであれば15万バーツ(約63万円)の補助金が支給されます。
また中国側は、コロナ禍以降の景気減速で国内自動車市場が失速、過剰生産となったEVが値下げ合戦で激しく値崩れして苦しんでいます。
今年7月、BYDはタイに電気自動車工場を開設、これは同社にとって東南アジアで初となるもので、年間生産能力は約15万台です。
BYDのCEOワン・チャン・フー氏は工場の完成式に出席、式典の翌日には、タイ王国の当時の首相と会談、
その時、ワン・チャン・フーCEOは、顧客の権利が確実に保護されるようにすると話していたそうです。
中国とタイの間にはASEAN – 中国FTA(ACFTA)協定があり、クルマの完成車輸入関税はゼロ、15万バーツ(約63万円)の補助金までもらえます。
調査会社・カウンターポイントによると、BYDにとってタイは海外最大の市場になったという事です。
そしてBYDは今年第1四半期にタイの電気自動車市場の46%を獲得、乗用車市場で第3位の企業となりました。
しかし、中国の電気自動車メーカーは、激しい販売競争は値下げ合戦へとエスカレート、
約120万バーツ(日本円で540万円)だったBYD アット・スリーは、2年も経たずに、なんと約80万バーツ(日本円で360万円)へ値下げしました。
日本円換算で180万円以上という、信じられない値下戦力は、タイのユーザーの大きな怒りを買い、
現地では大きな社会問題となり、タイ消費者保護委員会に多くの苦情が寄せられる事となりました。
タイ消費者保護委員会の調査結果に対し、タイ政府の報道官は、BYDの価格設定が適切であるとした一方、
影響を受けた顧客に対する補償を、確実に実施しなければならないと強調しました。
中国の自動車メーカーはタイ市場に積極的に参入していますが、需要の低迷により、企業間の競争もますます激しくなっています。
自動車メディア「オートライフ・タイ」のデータによると、現在タイのEV市場では、BYDをはじめ、長城汽車(グレート・ウォール・モーター、長安汽車(チャンガン・オートモービルなど10社以上の中国自動車会社が競合、
2023年のタイの純電気自動車の販売台数は、前年比で78倍となる7万6314台まで増加しました。
タイのBYDの独占販売店、タイ・リバー・オートモービルは、BYD電気自動車ディーラーを2025年末までに300店に増やし、現在の規模の3倍にする計画を発表しました。
しかし現在、タイでは消費者需要の低迷と、電気自動車の供給過剰という問題に直面しています。
2022年にタイでは電気自動車の補助金を導入、今までに18万5000台の電気自動車が輸入されました。
タイ陸運局は、8万6043台の電気自動車が新規登録されたと報告、
つまりこれは、現在、輸入されたEVの半分以上となる少なくとも9万台のEVが売れ残っていることを示しています。
タイ電気自動車協会のクリスダ会長は、過去2年間に中国から輸入された大量のEVが販売店の在庫に残っているため、EVの供給過剰になっていると述べました。
会長はまた、より多くの中国の電気自動車メーカーが現在、タイでの生産に投資しており、供給過剰の状況は悪化する一方だと付け加えました。
この供給過剰は、従来のガソリン車などタイの内燃機関車両業界を巻き込んだ価格競争を引き起こし、
さらに影響は自動車・サプライチェーンにまで及び、少なくとも12社の部品メーカーが倒産、
タイの部品のほとんどが価格高騰、生産削減や工場閉鎖にもつながっていると話しました。
タイ工業連盟は、車の供給過剰の為、年間生産目標を190万台から170万台に引き下げました。
そして、タイの潜在的な車購入者も、年末までにメーカーからさらなる値引きを期待して購入を遅らせているといいます。
今年上半期、1月から6月までの車・総売上は、2023年の同時期と比較すると、24%減少、
6月のタイの自動車販売台数は、前年・同月比で約17万7000台少ない、わずか4万7000台です。
中国製・電気自動車のダンピングと価格競争は中国や東南アジアにとどまらず、
ヨーロッパや、米国にも多くの問題を引き起こしています。
6月、EU(欧州連合)は、中国の電気自動車が不当な補助金の恩恵を受け、EUのメーカーに経済的脅威を与えていると結論付け、
中国製・電気自動車に対する一時的な関税を発表しました。
同様な理由で、米国は5月に、中国製電気自動車に100%の関税を発表しています。
中国の電気自動車ブランドは、政府の補助金と国内のバッテリー・サプライチェーンの優位性を活用、
低価格で欧州市場に参入しましたが、1年以内に、その市場シェアは欧州の上位ランキングからほぼ消えました。
ドイツのコンサルティング会社・ベアリングポイントと、ドイツのビジネス紙・ハンターズブラッドが共同で発表した、
2024年・電気自動車・魅力度指数と題したレポートによると、中国の電気自動車は魅力が最も低いとされ、品質も信頼性評価も最低となっています。
2023年9月、中国の国営放送局CCTVは、中国製・電気自動車の販売実績を自慢、欧州市場で販売された電気自動車の8%が中国ブランド製であると述べました。
そしてこの時、中国の自動車輸出が日本を上回り、初めて、中国は世界最大の自動車輸出国になったと自慢気に報告しました。
しかし、低価格によるだけの中国製・電気自動車の販売戦力は、わずか長くは続きませんでした。
2024年1月から4月まで、中国製・EVはヨーロッパの電気自動車販売ランキングトップ15に、3社が入ったものの、
今年6月には、中国勢で最上位のBYDが16位となり、中国ブランドのEVはヨーロッパ5か国のトップセールスランキングから完全に姿を消しました。
中国の新エネルギー車・市場の現状について、経済アナリストのザイ・シャイン氏は次のようにコメントしています。
「中国の皆さん、電気自動車の保険料が大幅に値上げされたことをご存じですか?また中国の新エネルギー車・業界全体が崩壊しようとしていることをご存知ですか?
EVメーカーに部品を供給している多くの下請け企業は、部品価格を下げるよう絶えず圧力をかけられ、倒産の危機に瀕しています。
公式データによると、中国の新エネルギー車の国内在庫は約40万台あり、これは昨年の10倍です。
これらの車は、生産されディーラーに納品されると、販売済みとしてカウントされています、実際には在庫として残っているだけです。
しかし、車は利益を生んでいません。その場合メーカーはどうするのでしょうか。それは下請けのサプライヤーへの支払いを遅らせる事です。
これは、下請け企業が支払いを受けていないことを意味します。現在、中国の下請け企業の80%が破産の危機に瀕しています。
なぜ中国の自動車メーカーの品質が低下しているのか分かりますか?それは、部品サプライヤーがコストを削減する必要があるためです。
中国車の品質は年々低下しており、製造から3から5年も、もたない可能性があります。
電気自動車に詳しい人に尋ねれば、中国・国産の電気自動車は単なるおもちゃだと言うでしょう。」と述べています。
今回のBYDの価格戦略は、多くの消費者を混乱させました。中国の電気自動車メーカーは、なぜこのような価格競争に走るのでしょうか?
BYDの価格戦略は、成功と言えるでしょうか?それとも失敗でしょうか?あなたはこのような企業の行動をどう思いますか?
それではまた、次の動画でお会いしましょう!
ご視聴ありがとうございました!
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